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● 低体温症への備え ●

相模勤労者山岳会 田村

 皆さん、「低体温症(ハイポサーミアとも言うようです)」のことはご存じでしょうか? 私は恥ずかしながら、数年前の沢の事故までこの言葉を知りませんでした。今回「低体温症」を調べて感じたことは、「低体温症」はもはや常識でなくてはいけないということです。時期的に冬山を想定しての発表になりますが、低体温症は年間を通じて起こりうることで、対処方法を知らないと致命的なことになります。登山以外にも、カヌーやダイビングなどのスポーツでも低体温症は起こります。酔っぱらった人が屋外で寝て、翌朝死んでいるのも低体温症によるものです。

 また、冬山では低体温症と密接な関係を持つ症状として「凍傷」がありますが、凍傷の処置方法を低体温症に対して行うと、助かる人間をかえって殺す事にもなりかねません。皆さんに、是非理解していただきたいと思います。

1.体温とその調節

 低体温症の説明を行う前に、「人間の体はいかにして体温を調節するか」を説明したいと思います。

 人間の体温は37℃でほぼ安定していますが、これは体の内部や頭部など深部:重要な臓器がある部分 を守る仕組みがあるからです。気温が30℃の時でも、氷点下でも、体の深部は平熱を保っています。

 深部の体温が維持されるためには、体の発熱(産熱)と体外への放出(放熱)とのバランスが取れていなくてはなりません。産熱は筋肉と肝臓から行われているので、生きていれば熱は生み出されています。運動すれば、より多くの熱が発生します。つまり産熱は常に行われており、その分放熱も常に行われているということです。

 ここで、放熱の仕組みを説明しましょう。熱の移動には放射・蒸発・対流・伝導の4つの方法があります。

 放射は暖かいものから熱が光(赤外線、遠赤外線)となって飛び出すことです。太陽の光や、たき火から離れていても感じる熱、遠赤外線こたつやストーブがあります。体からの放射やその反対の吸熱は常に行われていますが、黒っぽいものは放射や吸熱の度合いが高く、反対に光を跳ね返す白い色や銀色のときは放射、吸熱はしにくくなります。レスキューシートが銀色なのはこの理由からです。

 蒸発は、水が気化する際に熱を奪うことで、体からは汗が蒸発したり、呼吸の際に吸った空気を湿らせて吐き出すことで行われます。

 対流による放熱は、皮膚で暖まった空気や水が上方に移動し、変わりに冷たい空気や水と新たにふれることで行われます。風があったり、水が流れている場合は、放熱の速度は何倍にも高まります。特に水の場合は空気の20倍以上の速度で熱を奪います。水から上がっても、今度は蒸発による放熱が行われるので、すぐに乾いた衣服に着替えないと体温の放熱は続くことになり、迅速な対処が必要です。

 伝導は冷たいものや、熱を伝える速度の速い金属や岩に触れることで起こります。触れた相手も暖まりますが、その熱が急速に他に部分にも伝わってそこから逃げてしまえば、触れている部分はいつまでも冷たいままで、体から熱を奪ってゆきます。

 産熱により温度が上がった血液は体の表面に送り出され、そこで放熱を行い、冷えて戻っていくわけです。放熱は全身の表面から行われますが、体積あたりの表面積の多い手足(末梢部)は体の中心部分に比べて、非常によい放熱部となります。運動により産熱が増えた場合は、汗の量をふやすことで蒸発による放熱量を増やし、更に血行を早くすることで熱の移動速度を上げ、産熱と放熱のバランスをとります。

2.低体温症になる理由

 では、低体温症はどうして起こるのでしょうか?通常、放熱は産熱に見合った量だけおこなわれるのですが、放熱量が産熱量を上まわるようになったとき、体温は低下してゆきます。

 これらのうちの1つ、もしくは複数の要因によって、放熱が産熱を上まわるのです。

 

3.低体温症の症状

 低体温症はどのような症状なのでしょうか? 体温が上がったときの場合は、風邪を引いて熱がでたことを思い出せば何となくわかると思います(熱中症もありますが、別の機会に勉強したいと思います。)

 体温が下がった場合の症状は、

  1. 皮膚の血管の収縮と震え。外観では唇が紫色になる(深部温度の低下開始時、 36.6℃程度から現れる) 震えは産熱を行うためにでます。一方、皮膚の血管の収縮は、放熱を行う体 の表面への血液の量を減らすために起きます。つまり体が、産熱を増やし、 かつ放熱を減らすことで、深部の体温を上げようとするわけです。しかし、 血行量が減ることから末端部はより温度が下降し、凍傷にかかりやすくなります。

  2. 運動能力の低下、意識混乱、言語障害(深部体温35℃以下)

  3. 筋肉の硬直、心拍数、血圧の低下(深部体温32℃以下)

  4. 脈がほとんどなくなり、意識は不明、呼吸も浅くなり、死に至る(深部体温26℃以下)
 皆さんは、どう思われました? 肉体が体温を維持し、行動を行えるのは、1の段階のみです。もし、この状態で体温を維持できなかったり、保温などの積極的な行動をとらなかった場合は2の段階となり、そうなると自力での対処は難しくなります。3の段階までなってしまうと、体温の調節機能も働かなくなるので、4の段階に進むだけです。こうなると、ちゃんとした救急医療がほどかされなければ絶望的でしょう。つまり深部温度がわずか2℃下がっただけで、自力での低体温症からの脱出は出来なくなるのです。

 このことから、予防、早期発見が重要であることが想像できると思います。また、体温が35℃まで下がるには、冬山のような低温は必要でなく、単に、放熱量が産熱量を上まわるだけでなることも理解できます。

 

4.低体温症への対策

 ここではいくつかの段階に分けて、低体温症への対策と対処法を述べたいと思います。

 

 

付.

1.凍傷に関して

 低体温症と凍傷は冬山では密接にとらえられることも多いのですが、私は低体温症から派生することもある、部分的な傷害ととらえ、補足的に説明したいと思います。

予防法
凍傷の一因として、低体温に対する体の防御反応(末端部の血行が減ること) があります。低体温症の予防の他、

などの工夫で凍傷も防げるものと思います。

治療法:

 低体温症時の処置と反するものもあるので、低体温症時には絶対に行ってはいけない。ごく軽度の場合のみマッサージも有効。
  重度になると皮膚組織が壊れるため、 絶対にこすってはいけない。
  患部は40〜42℃のお湯で急速解凍をする。湯温の低下を少なくするため、 お湯の量は多い方がよい。熱すぎるお湯は、組織が壊れている皮膚を痛めてしまう。 また解凍後の皮膚は清潔に保たなくてはならない。
  鎮静と、血栓を防ぐ意味で、 アスピリン(バファリン)が有効だという話もある。 火に直接かざすようなことはしてはいけない。加温の効果は少ないくせに、 皮膚を痛める。
  治療後の再凍結や下山時の使用は厳禁。もしそれが出来ないなら、下山するま で治療しない方がましの場合もある。

2.薬に関して

 低体温症、凍傷ともに効果的、かつ安全な予防薬は無いようです。

参考資料